第一回 雑貨のMD 「13:マーチャンダイジングシステム その5」

 

4:マーチャンダイジングシステム

 今回からMDシステムの中で、バイヤーが行う役割についてみていきます。
 私は、婦人服飾雑貨輸入卸の会社へ入り、3年間は営業として数十件(たしか常時50件はあったと思います)の取引先を担当していました。入社3年経ってお客様のことや商品のことがだいぶ理解できるようになったところで、仕入れ(買い付け)にも関わることになりました。
 
 「利はもとにあり」という言葉があります。「商売において良い商品を良い条件で仕入れることが利益の源泉」という意味で使われることが多いです。営業職にとって、会社が売る商品の仕入れに携われるということは、自分自身の担当販売先だけでなく会社全体の売り上げに対しての責任もかかってくる、重要な任務なのです。
 
 そんな重責は微塵も感じず、半分観光気分で(同行者が営業担当取締役と営業部の先輩社員)初めての買い付け出張へ参加したのが1989年。世間は「すごく景気が良くなってるいんじゃないの?」と言うバブル景気に突入し、イタリアンカジュアルがトレンドの中心を飾っていた時代です。
 
 私は今でこそファッション専門学校で教えたり、このような記事を書いたりしていますが、当時は普通科高校を卒業して入った専門学校を3ヶ月で中退、飲食や八百屋でフリーターをしてから入った輸入商社です。ファッションの知識も輸入やビジネスのことも、とんと知らずに入ったので、そこから身をもって覚えた知識や知恵、10年間のこの会社員時代と独立後ベンチャースクールで学んだ実務や数値計画、そんな色々をもっと早くから体系的に学んでいたら、もっと違った仕入れ活動やビジネス構築が出来ただろうと思います。
 そんな自分自身の思いがあるので、皆さんはここで先に身につけて、これからの商品企画に役立てていって欲しいと思います。
 
 話がずれましたが、私の初めての買い付け出張、約2週間かけてイタリア〜フランスのビジネスショーや工場、販売代理店のショウルームをまわりました。仕入れは駆け出しのペーペーだったので先輩社員の選ぶものにたまに自分の欲しい物を混ぜてもらって、というような感じだったと思います。驚いたのはミラノの『MODIT』モディット(現モーダミラノ)というビジネスショウ。数階建ての大きな体育館、それぞれの階がびっしりとブースで埋まり、その体育館みたいな建物があっちにもこっちにも!会場の通路を早足で一日かけて歩いても、まだ回れていないブースがあるほどの規模です。今でこそ東京ビッグサイトのギフトショーもかなりの規模になりましたが、世界中でイタリアンカジュアル全盛期のイタリアファッションのビジネスショーです。まずはその規模に圧倒されました。
 
 そんな中で、自社の顧客の顔を思い出しながら、既存の仕入れ先でのサンプリングや新しいメーカーの開拓もしなければなりません。ショー会場を訪れる予定は2日です。先にこの会場で見なければならない既存取引先でのサンプリング、その予定が終わると、一通り見た中で新規で取引したいところに優先順位をつけて一社ずつ再訪問していきます。新規なので取引条件の交渉も行なわなければなりません。手順としては初日に全体を見て回るところで今回もサンプリングする既存取引先に寄りながら、興味深い新規の会社のブースに立ち寄って条件を聞いておき、二日目に既存取引先すべての用事が終わったところで、目星を付けたところへ再訪問という順序です。
 
 買い付けに出発する前に、次回展示会に必要な商品の量、新しく欲しい商品、既存仕入れ先で外すところと再度仕入れるところとその量など、だいたいの枠組みを立てて出張に臨みます。そのため、ビジネスショーで圧倒される程のコレクションを見せられても、瞬時に要不要の判断が出来、限られた時間でロスの無い効率的な商品選びをすることができたのです。
 
 海外での買い付けは、思わぬこともよく起こります。既存取引先で長年取引をしていたところでも他の日本の会社に独占販売権を渡して取引が出来なくなったり(バブル時代は日常茶飯事でブランド争奪戦が起こっていました)、大手の系列に入り取引が出来なくなったり、取引条件が厳しくなったりと、その度ごとに出張前に作った枠組みを書き直し、足りなくなったものを現地エージェントに伝え、代替のメーカーを探してもらったりビジネスショーで探したりと、臨機応変な対応能力が求められます。
 
 前置きが長くなりましたが、来週からバイヤーの仕事として、どのように次シーズンの数値予測を作り、それを実行していくのか? というバイヤーのお仕事について細かく見ていきます。では、次週をお楽しみに。

本コンテンツは、ピーアールオーから提供されたものであり、著作権は同社に帰属します